久しぶりの釣行に、早朝から気合いが入る。
朝起きて、顔を洗うのもそこそこに、車に釣り道具を積んでいると
となりのおっさんが、一足早く家を出て私の車の横を通り過ぎて行く。
慌てることもないのに、かってに焦って車を出し、おっさんの後を追いながら、
「え”~っ!おっさんも釣りかいな。釣りなんかしそうに見えんのになぁ・・・」
「ひょっとして職場のだれかに誘われて、今日初めての釣行で渓流デビューとか・・・・」
「それもワシが行こうと思ってるあの谿で・・・・」
などと、前を行くおっさんの車に向ってぶつぶる言っていると、ますます焦ってくる。
「絶対どっかで抜かしたんねん・・!」
と、追い越し禁止が解けるのを、まだかまだかと思いながら運転をしていると、
交差点でおっさんは左の指示器を出し、私は右に折れた。
「盆栽が趣味のあのおっさんが、釣りなんてわけないわな・・・」
と思い直しつつも、隣のおっさんが一瞬、釣り師に見えた自分が情けない。
高速に入り、窓を閉め音楽を聴きながら、快調に走っていると
こんどは、タンクローリーが前を走っている。
私の好きなステンレスピカピカのあのタンクローリーだ。
ステンレスのタンクローリーの最後部は、凸面鏡のようになっていて
そこに映る自分の車と周りの景色を見ていると、私はいつも
意識がタンクの内と外を行ったり来たりしているような、へんな錯覚に陥る。
「え”~っ!このおっさんも釣りかいな・・・」
「あの谿に上に牧場でもあって、絞った牛乳の集荷のついでに釣りでもすんのんか?」
「そやけどあの林道をこのタンクローリーで登るちゅうのはちょっと無理ちゃう?」
「牛乳がチーズになってしまうでぇ・・・・」
などと、タンクローリーの凸面鏡に吸い込まれそうな意識の中でぶつぶつ言っていると、
またまた焦ってくる。
タンクローリーは次のICで高速を降りた。
タンクローリーが林道を登る様子を一瞬想像した自分が情けない。
目的地近くのICで高速を降り、友人との待ち合わせ場所の道の駅に向う。
すると今度は、地元ナンバーのジムニーが前を走っている。
リヤウィンドにはハーディのロゴのシールなんかが貼ってある。
「え”~っ!こいつは絶対に釣りやな。絶対こいつもあの谿に入るんや。最悪やんけぇ!」
「道の駅なんかに寄って、時間を食って場合やないねんけどなぁ。」
「ほやから待ち合わせの時間を、もう1時間早うしようて言うたのに!」
とハーディのロゴに愚痴っていると、そのジムニーも道の駅の駐車場に入って行った。
私も続いて入り、ジムニーとそれ程遠くない場所に車を止めると
ジムニーからは友人が降りてきた。
釣り場まで、見る人・出会う人・前を行く車、みんなが釣りに行く様に思える。
それも、私が行こうとしているあの谿に。